はじめに
少子高齢化に伴う労働人口の減少や市場経済の縮小に対する懸念から,育児制度改革が求められる昨今,育児休暇取得率の低迷というのは,非常に大きな課題の一つである.
そこで本レポートでは,我が国の育児休暇取得率が低迷する理由について,法・制度面と企業風土の2つの視点から考察を行う.
1.日本の育児休暇制度
まずは日本における育児休暇制度の現状について,育児介護休業法を中心にまとめる.
取得の条件
育児休暇取得の条件として,日々雇用される労働者であること,若しくは期間雇用者である場合,同一事業主に引き続き1年以上雇用されており,子どもが1歳に達する日を越えて引き続き雇用されることが見込まれる(子どもが1歳に達する日から1年以内に労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかである場合を除く)ことが挙げられる.
また,公務員は,国家公務員の育児休業等に関する法律3条により,子どもが3歳に達するまで育児休暇の取得が可能となっている.
育児休暇の取得には申請が必要であり,上記の条件を満たしていても,自動的に休暇が与えられるわけではない.子どもの氏名,生年月日,続柄,休暇開始及び終了予定日を明らかにし,1歳までの育児休暇はその1カ月前,1歳から1歳6カ月までの育児休暇については2週間前に申請手続きを行う必要がある.
期間
育児休暇の期間は,原則,子供が1歳に達するまでである.この期間に産後休業期間は含まれない.また,保育所に入所を希望し,申請を行っているが,入所が困難な場合,子どもの養育を行っている配偶者がやむを得ない事情によって養育困難な状況となった場合については,1歳6カ月まで期間の延長が可能である.
育児休業給付
育児休暇期間中は,育児休業給付金の受け取りが可能である(ただし下記条件を満たす必要がある).
①一般被保険者(短時間労働被保険者を含む)である.
②育児休業開始日の前2年間に,賃金支払い基礎日数11日以上の月が12ヶ月以上ある.
③各支給単位期間(育児休業開始から1ヶ月毎の区切り)に休業日が20日以上ある.
④各支給単位期間において,休業開始時の賃金に比べ,80%未満の賃金で雇用されている.
育児休業基本給付金の額について,休業開始時の30%相当額(休業期間中の賃金が休業時の50%を超える場合には,賃金と給付額の合計が休業開始時の80%に達するまで)となっている.
また育児休業を終えて職場に復帰した場合,育児休業者職場復帰給付金(業開始時月額賃金の10%×育児休業基本金の支給月数)を受け取ることが可能である.
マタニティハラスメントへの対応
育児介護休業法及び男女雇用機会均等法では,マタニティハラスメントを防止し,労働環境の改善を図るために以下のような規定がなされている.
①事業主は,育児休業の申出や取得を理由に,解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない(10条).
②小学校就学前の子を養育する労働者は,その事業主に申し出ることにより,1年につき5労働日を上限 とする子の看護休暇を取得することができる.年次有給休暇と違い.使用者は申し出た取得日を変更 拒否することは出来ない(16条の2,3).
③小学校就学前の子を養育する労働者が請求した場合には,一定の要件に該当するときを除き,1か月24時間,1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない(17条1項).
④小学校就学前の子を養育する労働者は、深夜労働の制限を、事業主に請求することが出来る(19条).
⑤事業主は,3歳未満の子を養育する労働者については、勤務時間の短縮等の措置を講じなければならない(23条1項).また,3歳から小学校就学前の子を養育する労働者については,育児休業の制度又 は勤務時間の短縮などに準じた措置を講ずるよう努めなければならない(24条1項).
⑥事業主は,労働者を転勤させようとする場合には,育児が困難となる労働者について,その状況に配 慮しなければならない(26条).
⑦事業主は、職業家庭両立推進者を選任するよう努めなければならない(29条).
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに,女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することをその目的として制定された法律である(1条).女性労働者の母性の尊重と職業生活の充実の確保を基本的理念として掲げ(2条),さらに女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を規定している(9条3項).
2.育児休暇に対する企業の反応
育児休暇制度というのは,男女問わず全ての労働者において法的に保障されており,雇用主は労働者の求めに応じ,育児休暇の取得と雇用の維持を行わなければならない.
しかし実社会においては,労働者が妊娠,出産,育児を理由に企業側から解雇,退職推奨,降格,給与減額等の不利益を被るマタニティハラスメントが頻発しているのが現状である.
背景には,「男性は働き収入を得,家族を養う,女性は家事や育児を行い家庭を守る」というような性的役割分担志向.育児休暇の取得は負担であるいうような企業側の認識の偏りが存在しているものと推察される.
男女間の育児休暇取得率には顕著な差がみられ,女性の育児休暇取得率は83.6%であるのに対し,男性の育児休暇取得率は1.89%と女性に比べて著しく低い.
3.まとめ
現行の育児休暇制度とそれに対する企業の反応について調査した結果,育児休暇取得率低迷(特に女性)の背景には,国民の性的役割分担志向や育児に対する企業側の認識の偏りが存在することが明らかになった.今後は,マタニティハラスメントに対する企業側への法的罰則規定の強化や,育児に対する国民の理解の浸透へ向けた啓蒙活動の推進等が望まれるものと考える.
4.参考・引用文献
育児・介護休業法のあらまし.厚生労働省.2014年12月5日検索.
(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/aramashi.html)
パパの育児休業体験記.内閣府.2014年12月5日検索.
(http://wwwa.cao.go.jp/wlb/change_jpn/taikenki/h20/).
男女共同参画白書2012.内閣府男女共同参画局.