時間は、あらゆる仕事に必要な経営条件であり、マネジメント最大の制約条件です。ドラッカーは、「成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。」といっています。
本記事では、業務用食品卸の会社に勤めるA君の体験を例に、ドラッカーに学ぶ成果をあげるための時間管理ついてお伝えします。
問題の例
私は、ホテルや病院、レストランに食品を販売する仕事に従事しています。イベント、シーズンを先取りしたメニューのご提案や、繁盛メニューの開発サポート、人手不足の解消など、お客様のお悩みを食品で解決するお手伝いを通してお客様との信頼関係を築き、当社の食品をどんどん買っていただけるようにすることが私の使命です。
しかし、最近は思うように仕事がはかどらず、成績も伸び悩んでいました。決して怠けているわけではないのですが、やることが多く、本来の仕事になかなか取り組めていないのです。
「このままでは、何の成果もあげられず、ダメになってしまう。」
そう考えた私は、一度立ち止まり、自身の仕事を見直してみることにしました。
すると、うまくいっていた頃と比較して大きく変化したのは、任せていただくお客様の軒数が大きく増えたことにあると気づきました。50軒のお客様の担当から100軒のお客様を担当させていただくようになったにもかかわらず、以前と同じような仕事を行ってしまったため、多くのトラブルやムダが発生していたのです。具体的に時間を記録したところ、在庫管理ミスによる品切れの対応や賞味期限間近商品の販売に3時間。作成したにもかかわらず、タイミングを逃してしまい、ご案内できなかったお見積りや資料の作成に1時間と、1日の勤務時間の約半分をトラブルやムダに割いてしまっていることがわかりました。
ドラッカーに学ぶ時間管理のポイント
ドラッカーは、適切な時間管理を行うために、以下の3つの行動を継続して行うことが重要であるとしました。
- 時間を記録する
時間管理の第1歩は、実際の時間の使い方を記録することです。そのさい、記録の方法について気にする必要はありませんが、リアルタイムで行うことが大切です。記憶による記録を行ってしまうと、正確な現状把握ができなくなってしまうからです。また、時間の記録は定期的に行い、継続して改善を行う必要があります。 - 時間を整理する
整理とは、不要なものを取り除く(やめる)ことです。時間の整理には、次の3つの方法があります。
(1)何の成果も生まない仕事を排除する
(2)他の人でもできることを考える
(3)自分でコントロールできる浪費を排除する - 時間をまとめる
時間の記録を行い、整理したとしても、使える時間はそれほど多くはありません。
いわゆる、”すきま時間”と呼ばれるものを活用しようとしても、思考を切り替える時間がありますし、ある程度の時間を費やさなければ、深い考察を行うことができないからです。
すなわち、仕事で大きな成果をあげるために、自由に使える時間を大きくまとめることが必要になります。
解決のための具体的な行動
適切な時間管理を行い、成果をあげるために、私は、時間の使い方を記録することからはじめました。具体的には、起床から出勤、退勤、そして就寝に至るまでのすべての行動と時間をリアルタイムで手帳に記録しました。
次に、その記録をもとに、不要な仕事の整理を行いました。行動記録の中で私が不要だと判断したものは、次の3つです。
①品切れによるお客様へのお詫びと代替品のご案内にかけた時間
②賞味期限が差し迫った商品を販売するためにかけた時間
③タイミングを逃し、お客様にご提案できなかった資料の作成にかけた時間
①、②に関しては、増加したお客様の情報を私が管理できておらず、仕入れを行う部署との情報共有ができていない点が問題でした。すなわち、仕入れを行う部署もどの商品をどれだけ仕入れたらよいかわからず、先週の販売数と同じ数を仕入れるということを機械的に行っていたため、需要の変化に対応できず、仕入れや過剰在庫が発生していたのでした。
そこで、需要の増加が見込まれる連休やイベントの前には、お客様にヒアリングを行い、その情報を仕入れと共有することにしました。
その結果、品切れや賞味期限間近の商品が発生することはほとんどなくなりました。
また、③に関しては、あれもこれもご提案といったこれまでの営業活動を見直し、成果の見込めるお客様に絞ってご提案を行うことで資料作成にかける時間を短縮しました。
その結果、できた時間をまとめ、本来割くべきお客様の課題の抽出と解決のご提案に費やすことができるようになりました。また、新規のお客様獲得(飛込営業)といった、将来につながる活動もあわせて行うことができるようになりました。
こうした取り組みのおかげで、現在の成績は右肩あがりです。この結果に慢心せず、時間管理を定期的に行っていく所存です。
参考・引用文献
浅沼宏和:豊富な事例で学ぶ~世界一かんたんなドラッカー実践講座,職業訓練法人日本技能教育開発センター,2015,pp.1-189.