国立公園等の保護区を設定する際,どのような基準を用いればよいのだろうか.単一の大面積とすべきか,あるいは細分化し,複数の小面積とするのか.
マッカーサーとウィルソンが提唱した島の平衡理論により,面積一種数関係(島の敷地面積が拡大するにつれ,種数が増加すること)は,絶滅の平衡状態と島への移入により説明されること.更に,他の陸地からの距離が開いた島ほど,移入率の減少傾向が認められることが示された.これを保護区の設定に応用するならば,単一にこだわり,可能な限り広大な面積区画を確保した保護区であるほど,多くの種が含まれ,絶滅速度は緩やかとなり,孤立化による影響も最少に留めることが可能であると考えられる.
しかし,このような島の平衡理論を保護区の設定にそのまま用いる行為に対し,疑問を投げかけた研究者も存在する.シンバロフを中心とするアメリカの研究チームは,実験的に一つの島を複数に分割して種数の計測を行ったところ,種数の増加がみられる場合があることを証明し,島の平衡理論の保護区への応用に対して警鐘をならした.
こうした「 保護区について,単一の大面積とすべきか,あるいは複数の小面積とすべきか(Single Large Or Several Small reserves of equal area) 」という議論は,各単語の頭文字をとってSLOSS論争(SLOSS Debate)と呼ばれ,幾度となく対立した過去がある.
現状において,SLOSS論争は,「場合による」というほかない.近年の研究により,広大な面積の森林にしか生息しない種も存在する一方,断片化した森林においても種数が変化しない,あるいは増大する種も存在することが明らかになっている.また,前提として,生物多様性とα多様性は同義ではない点も留意しなければならない.保護区の設定に際しては,SLOSS論争を踏まえた上で,内部における動的変化,及び,種の質についても配慮し,適切な形を模索すべきであろう.
参考・引用文献
島嶼生物地理学の理論を保全へ応用:SLOSS 論争とは.むしのみち.2015年6月10日検索.
(http://dhatenanejp/naturalist2008/20091111/1257913642)
Laurence WF (2009). Beyond Island biogeography theory, The Theory of Island Biogeography Revisited.
Quammen D (1996).The Song of the Dodo: Island Biogeography in an Age of Extinctions; Scribner.