知的財産権とは何か
我が国では,個人や組織の知的創作活動による創作物や産業に関するアイデア,デザイン等に対し,知的財産制度という形で保証されている.
知的財産権制度とは,知的創造活動によって創作された創作物を創作者の財産として保護するための制度であり,知的財産及び知的財産権は知的財産基本法において以下のように定義されている.
第2条 この法律で「知的財産」とは,発明,考案,植物の新品種,意匠,著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって,産業上の利用可能性があるものを含む.),商標,商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう.
2 この法律で「知的財産権」とは,特許権,実用新案権,育成者権,意匠権,著作権,商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう.
知的財産基本法(平成14年法律第122号)
知的財産の特徴として挙げられる点は,財産的価値を有する情報であるというものである.情報は容易に模倣されてしまう上,物質的有限性をもたないために,消費されるということがなく,多くの者が同時に利用することができる.これは,利用者側としては非常に大きなメリットであるが,同時に創作物の模倣を促し,創作者の権利を侵害してしまう恐れがある.こうした背景から知的財産制度は,創作者の権利を保護するために,元来自由利用できる情報を,社会が必要とする範囲で制限する制度といえる.
特許庁は,知的財産権は産業財産権と著作権,著作隣接県のの3つに大別されるとしている.知的所有権とは,著作権や産業財産権等を含む,人間の知的創作活動から生産されたものに関する権利の総称である.
また,産業財産権は,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の4つを指す.アイデアやデザイン等に独占権を与えることでにより模倣を防ぎ,開発者の権利を保証することで商品取引の信用や研究開発の奨励行うことを目的としている.
4権の詳細についてまとめると下記のようになる.
○特許権(出願日から原則20年存続)
発明に対して与えられ,特許庁への出願,審査を経て登録される.登録要件として,発明に新規性があること,あるいは従来の発明よりも進展していること等が挙げられる.
○実用新案権(出願日から10年存続)
考案に対して与えられ,物の形や構造,組み合わせに関するアイデアが保護される.実用新案権は実体審査は行わず,特許庁への出願審査のみで登録されることから,特許権より短期間での権利化が可能である.ただし,安定性は特許権に劣る.
○意匠権(設定登録日から20年)
デザインに対して与えられ,特許庁への出願,審査を経て登録される.登録要件として,新規性や創作非容易性等がある.
○商標権(設定登録日から原則10年)
商品名やブランド名等に対し与えられ,特許庁への出願,審査を経て登録される.登録要件として商標に適すること,他の商標と類似しないこと等が挙げられる.
著作権とは,小説や音楽などの著作物を創作した者に認められる権利であり,創作物を創作した者のみが利用できる権利をいう.著作権は文化の発展を目的として著作権法によって保護され,音楽や絵画,小説,映画,コンピュータプログラム等を対象としている.取得に際しては特別な指定はなく,創作した時点で著作者に対して自動的に発生し,原則として創作者の死後50年間保障される.このような仕組みは無方式主義と呼ばれる.
著作権は,財産権と著作者人格権の2つに大別される.
○財産権
複製権や公衆送信権,貸与権等があり,これらは他者への譲渡が可能である.一般的な著作権はこの財産権を指す場合が多く,狭義での著作権と言い換えることもできる.
○著作者人格権
人格的利益を保護するためのものであり,公表権,氏名表示権,同一性保持権等がある.これらは創作者のみに帰属する権利であり,他社への譲渡や相続ができない.
その他の権利として,代表的なものを以下に2つ挙げる.
○肖像権(人格権としての肖像権)
人格権としての肖像権とは,自身の姿や顔の写真や映像を他者に無断で使用させないというものである.例えば,本人の承諾なしに写真を撮影したり,それを無断で利用することは禁止されている.肖像権を侵害された場合,被害者は差し止め請求や損害賠償を求めることが可能である.我が国における法律では,肖像権に関する規定は存在しない.しかし,過去の判例等をみるに肖像権は公なものとして承認されつつあるといえる.
○パブリシティ権(財産権としての肖像権)
パブリシティ権とは,顧客誘引力がある肖像や名前の利用を占有できる権利のことである.例えば,芸能人の名前を使った宣伝行為のような経済的側面が財産権として保護される.パブリシティ権を侵害された被害者は差し止め請求や損害賠償の請求が可能である.
不正競争防止法について
不正競争防止法とは,他社の商品をまねたり,営業上の秘密を盗んだり,他社を誹謗中傷する等の利益侵害行為について定め,それに対する損害賠償等の措置を規定した法律である.市場における不正の排除を目的としており,差し止め請求権(営業上の利益を害するもしくはその恐れのあるものに対し侵害の停止あるいは予防の請求をする権利),損害額の推定(被害を受けた側がその損害額を立証することを簡便化することを目的に被害額を侵害者の得た利益の全額と推定する),営業上の信頼回復措置(不正行為によって営業上の信頼を害された場合,信頼回復のために必要な措置を侵害者に求めることができるとする)といった特徴を備えている.
不正競争防止法の定める違法行為は下記のようなものである.
○営業上の秘密の不正取得
不正な手段によって営業上の秘密(秘密として管理されているもの(秘密管理性),事業活動に有用なもの(有用性),公然と知られていないもの(非公然性))を取得し使用したり,第三者への開示を行う行為.
○著名表示冒用行為
著名な他社の商品や営業表示を自社の商品,営業表示として使用する行為.
○技術的制限手段回避装置提供行為
デジタルコンテンツのコピープロテクトやアクセス制限機能を解除する装置,プログラム等の販売行為.
○誤認惹起行為
商品の原産地,品質,内容等に関して誤認を促すような表示をする行為.
○代理人等の商標冒用行為
総代理店,特約代理店等の表示を代用権や販売権を保持していないにも関わらず,権利者の承諾なしに使用して商品の販売を行う行為.
○周知表示混同惹起行為
高い知名度の商品と類似した表示を使用した商品を生産,販売といった市場における消費者への混同惹起行為.
○商品形態模倣行為
他者の商品形態を模倣した商品の生産販売行為.
○ドメイン名の不正取得等
他者の商品や社名等と同じ,あるいは類似のドメイン名を取得したり使用したりする行為.
○信用毀損行為
競争相手の信用を害する虚偽の真実を告知,あるいは流布する行為.
以上,我が国における知的財産権と知的財産制度についてまとめた.ここで私が強く感じたことは,著作権そのものについて,私を含む多くの人はきちんと理解していないのではないか,という疑問である.上記に挙げた知的財産制度は複雑に分化したものであり,これらを完全に理解するためには,多大な労力が必要なことはいうまでもない.そして,この複雑な制度そのものが,著作権に対するある種の畏怖の概念ようなものを生み出し,合法的な創作の機会まで失わせているのではないだろうか.
そこで次章では,無断転載と二次創作の違いについて,焦点をあてて考える.