ポリフェノールに関する文献調査と市場調査 3 ポリフェノールの構造と機能性

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フラボノイド類の分類と構造

フラボノイドとは,2つのベンゼン環を3つの炭素原子でつないだジフェニルプロパン構造を有する化合物の総称である.GeissmanとHinreiner(1952)により命名された.中央の環は,ピラニン環もしくはC環とよばれている.フラボノイドは,C環の置換基と酸化状態により,様々に分類される.

ポリフェノールの生体中における効果

ポリフェノールは,電子,あるいは,水素ラジカルを供与するフェノール性水酸基が複数結合した特殊な構造により,スーパーオキシドやヒドロキシラジカル,一重項酸素など,複数の活性酸素を捉え除去する効果を有する.また,リポキシゲナーゼの阻害剤としても機能することから,多機能型の抗酸化剤としても知られている.ポリフェノールの機能は,抗腫瘍作用,血管疾患の予防,抗アレルギー作用など多面的であるが,これら疾患の多くは,活性酸素に依存するところが大きい.したがって,ポリフェノールは,その抗酸化作用をもって多くの疾患に対し,予防的に機能しているものと考えられる.

また,ポリフェノールは,タンパク質に対して非特異的に吸着すると考えられており,このような非特異的な作用により,酵素に対する阻害活性等を示す.その結果,抗腫瘍活性や抗ウイルス活性など、複数の機能を発現する可能性も指摘されている.

現在発見されているポリフェノールは,8000種類以上と多岐にわたる.なかでも,フラボノイドは,最も研究が進んでいるポリフェノールである.トマトに含まれるナリンゲニンカルコンの抗アレルギー作用や,ソバに含まれるルチンの血流改善作用など,種々の機能が,マウスやラットを介した動物実験により,示唆されている(表1).

表1 フラボノイドの機能性

出典:小瀬木一真,山田千佳子,和泉秀彦(2015),p.3

ポリフェノールの分子サイズの影響

フラボノイドは,植物性食品に普遍的に含まれている単分子化合物であり溶解性が高い.そのため,構造解析が容易であり研究に適している.一方,自然界に存在するポリフェノール,例えばプロアントシアニジンのような分子量の大きい重合体は,溶解性が低く,研究に適さない上,渋み苦みが強いことから,食品利用の面においても関心が低い傾向にあった.しかし,近年,このポリフェノール重合体に関する認識は,大きく見直されつつある.例として,烏龍茶に含まれる重合ポリフェノールは,リパーゼを阻害し,食後の高トリグリセリド血症を抑制することがマウスを用いた動物実験により,明らかになっている .また,田中(2007)は,ブドウ種子やリンゴ未熟果皮に含まれるプロアントシアニジン重合体を機能性の高い2-4量体のオリゴマーに変換する方法を見出した.この手法により得られたオリゴマーは,既に食品成分として実用化されている.さらに,これまで三量体,四量体などの延長として考えられていたプロアントシアニジンの十量体,二十量体は,シナモンの香りを形成するシンナムアルデヒドがプロアントシアニジンの分子間をつなぐ働きをもち,その際赤ワインやイチゴに含まれる色素成分と同骨格をもつ色素が生成されることを報告した.

プロアントシアニジンは,カテキンが複数つながった構造をしているが,シンナムアルデヒドのようなアルデヒド構造をもつものがカテキンと反応することにより,渋みが減少することが明らかになっている.したがって,これらの研究成果は,これまで不要とされてきたポリフェノール重合体の食品における2次及び,3次機能への応用を示唆するものである.

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参考・引用文献

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hiragushi
自信がもてないアラサー。ぼっち。 少しでも自分を変えたいとじたばたしている。

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